いつか読書する日 

2026/08/24

【日本映画】 岸部一徳 田中裕子

ネタばれあり!!!


【あらすじ】 地方都市で1人暮らしの美奈子(田中裕子)は、未婚のまま50歳を迎え、早朝の牛乳配達と昼間のスーパーのレジ係で、生計を立てている。夜はたくさんの本に囲まれて暮らしている。
 一方、高校時代に美奈子と交際していた、同級生の高梨槐多(岸部一徳)は、役所の児童課に勤務し、親の虐待を受けている児童の保護にあたっている。彼には癌で余命いくばくもない、病床の妻の容子(仁科亜季子)がいる。2人は青春時代に運命のいたずらで、仲を引き裂かれた暗い過去があった。 
 それから30年。ある日槐多の妻が、美奈子を自宅に呼び出して、「夫は今でもあなたを慕っているので、私が死んだら夫と一緒になってほしい。それが最期の願い」と頼む。妻の願いと自分の過去の思いの間で、美奈子の心は大きく揺れ動くのだった。(作品の詳細 




おすすめに出てきたので、何気なく観始めたら、田中裕子の演技に引きつけられ、他にやることがあったのに、それを中断して、けっきょく最後まで観てしまいました。

 田中裕子の淡々とした佇まい。その奥からは、言葉にできない情念や諦めが滲み出ている。毎日、急な坂や階段を上り下りして牛乳を配る姿は、自分の運命を、黙々と受け入れているよう。だからこそスーパーの店長(香川照之)に、「処女か」と聞かれ、無言になる瞬間、彼女が心の奥に隠してきた、凍りついた時間が痛いほど伝わってきた。そんな台詞を口にする香川が、ひたすら気持ち悪くて…。(あのスキャンダルがあったから尚更)



彼女と同級生の槐多(かいた)の間には、過去にスキャンダルがあった。それをきっかけに、表面上は他人として生きる道を選んだ。でも、本心ではずっと愛し合っていたのだ。長い年月、自分の本当の気持ちを押し込めて生きてきた。その末路が、たまらなく切ないのです。普段は悪役が多い岸部一徳の、静かな献身には驚いたなぁ。過去を償うように働き、余命いくばくもない妻に尽くす姿。彼もまた、切ない諦めを抱えて生きているんです。
 


そんな2人の人生の果てに響くのが『いつか読書する日』というタイトル。日々を生きるための義務や介護から、ようやく解放される日。自分のためだけに、静かにページをめくることができる。重い現実をすべて終えた後に訪れる、究極のご褒美の時間なのだと思う。
 



美奈子が晴天のもとで、坂を上り切るラストシーンと、すがすがしい表情。そこには、切なさを乗り越えた先の希望や、前を向く決意のようなものに満ちていた。激しい感情を抑えた演技で、彼女の最後の表情が本当によかった。
田中裕子、好きだなァ。

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